Art for Well-Being

Archive

2023年03月13日

[2022年度]展示内容と関連資料:展覧会 Art for Well-being 表現とケアとテクノロジーのこれから

この記事は、2023年3月4日(土曜)から3月12日(日曜)まで、東京・渋谷にあるシビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]で開催した展覧会「Art for Well-being 表現とケアとテクノロジーのこれから」の展示内容と関連資料をまとめています。

関連企画として、3月22日(水曜)に京都・FabCafe Kyotoで報告会を開催します。取り組みに中心的に関わった人たちから、表現者や現場は何を感じ発見したかなどを報告します。

展覧会の情報

催名 Art for Well-being 表現とケアとテクノロジーのこれから
会期 2023年3月4日(土)-3月12日(日)
会場 シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]スタジオB
主催 文化庁/一般財団法人たんぽぽの家
協力 社会福祉法人わたぼうしの会、NPO法人エイブル・アート・ジャパン
提携 シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT] 
全体監修 小林茂(情報科学芸術大学院大学[IAMAS])

文化厅委託事業 「令和4年度障害者等による文化芸術活動推進事業」
チラシデザイン / STUDIO PT.

あいさつ

展覧会「Art for Well-being 表現とケアとテクノロジーのこれから」にご来場いただきありがとうございます。表現すること、表現に触れること、表現しあうことは、よりよく生きていくことに必要だとわたしたちは考えています。だからこそ、病気や事故、加齢、障害の重度化など心身の状態がどのように変化しても、さまざまな道具や技法とともに、自由に創作をはじめることや、表現を継続できる方法を見つけていく必要があります。奈良県にあるたんぽぽの家では、1973年に活動をはじめてから、ワープロを障害のある人の自立につなげるため活動や、インクルーシブデザインの普及事業、創作を支える道具や仕組みづくり、3Dプリンタなどデジタル技術による仕事づくりなど、表現やケアという営みにおいてテクノロジーの可能性を探ってきました。そして今回、障害のある人たちが表現活動をしている福祉の現場で、AIやVRや触覚技術をとおして実験的な取り組みを実施してきました。全体監修として小林茂さんにご協力いただき、さまざまな専門家とケアの現場が連携しながらチャレンジしています。今後、医療や福祉、科学や技術、アートやデザインなど領域を超えて連携していけるよう、本展覧会を通して表現とケアとテクノロジーのこれからを考えていきます。

主催: 文化庁/一般財団法人たんぽぽの家

新しいテクノロジーが登場すると、往々にして人々は混乱します。たとえば、画像や文章を生成する人工知能をめぐる混乱は現在進行形です。人間の仕事を奪い尊厳を傷つけディストピアをもたらすものだととらえる人もいれば、人間が能力や寿命の限界を超越したユートピアをもたらすものだととらえる人もいます。いずれにせよ、人工知能のようなテクノロジーを、不可避で抗えない決定論的なものだととらえてしまうと、思考停止に陥ります。
私は、テクノロジーは中立の単なる道具ではなく、日々の生活から生死に至るまで世界に対する私たち人間の見方を大きく左右するものだと考えています。この立場から見ると、たんぽぽの家のような現場はとても魅力的です。日々の生活をよりよく生きていけるよう、日常に表現活動が織り込まれているのにくわえて、製品を創造的に流用するなど様々なテクノロジーに対する自在な解釈に満ち溢れているからです。
本展覧会では、普段から表現活動、ケア、テクノロジーに取り組んでいる人々がチームとなり、楽しみながら、そして時には困惑しながら一緒に考えてきた過程と中間的な成果を展示しています。本展覧会をきっかけに、みなさんもこの取り組みに参加していただけるのをお待ちしております。

全体監修: 小林茂(博士[メディアデザイン学]・情報科学芸術大学院大学[IAMAS]教授)

全体監修の小林茂さんによる会場紹介(22分53秒)

展覧会場の様子

Art for Well-being プロジェクトのはじまり

たんぽぽの家アートセンターHANAで活動するアーティスト武田佳子(たけだあつこ)さんの創作活動の変化を出発点として2020年からプロジェクトがはじまりました。武田さんは1985年頃に油絵具に出会い、それから描く事に魅了され、ネコや花などをモチーフに描いてきました。油絵を描くことが体力的に難しくなりパステル画などに挑戦し、2002年からは水墨画へ。その頃から一人での制作が難しく、創作活動を支えるアートサポーターとの制作に移行していきます。2012年頃にはこれまで以上に姿勢を保つことが難しくなったり、筆をもつことも難しくなるなど障害の重度化が進み、画材や画風をどのようにしていくかを作家自身とアートサポーターが一緒に悩んでいた時期もあります。身体が変化しながらも創作活動への意欲をもち、「今後、もし絵を描くことができなくなっても、心の中で描きつづけたい」と話した武田さんの言葉にも後押しされ、このプロジェクトをスタートしました。障害の重度化や高齢化にともなう課題を小林茂さんに共有したとき、まず教えてもらったのがAIによる表現を試すことでした。そこから、武田さんの表現をどのように支えられるか、武田さんとAIが出会えば何が生まれるのか、武田さんと同じような状況にある人たちにも何かができないだろうかと、テクノロジーを用いた表現の可能性を探りはじめました。

表現×AIの実験

最初に試してみたのが、機械学習ツール「RunwayML(ランウェイエムエル)」です。武田さんがこれまでに描いたネコの作品データを51点準備して、AIに学習させて新しいネコの画像を生成しました。生成した画像を見ながら「作家が関わる余地や個性やメッセージ性はどこにあるのだろう?」「作品を再現したいのか、作家の表現を拡張したいのか?」「作品が一人歩きして売れても、好きなことにお金が使えるなら楽しいのか?」など武田さんの存在を軸にAIとの関わり方を議論してきました。また、センサー技術を使って舌や視線や手首など身体の部位の中でできるだけ負担のないコミュニケーションツールの試作を行いました。
AIによる画像生成を試すと同時に、障害のあるメンバー、アートサポーター、ケアスタッフたちと「何が本人の表現を成り立たせているのか」「誰かと一緒に表現するときや、ケアをするときに大事なことは何か」について議論し、問いかけとして書き出していく展覧会「武田佳子と考える、表現の成り立ち」を開催し、表現活動を支えるポイントやテクノロジーに求めることについて、福祉の現場のなかで議論をひらいていきました。

プロジェクト実施内容:2022年度

Art for Well-being はアートとケアとテクノロジーの可能性を広げるプロジェクトです。2022年度は、アートとケアの現場におけるAIの可能性をさらに探っていくこと、AIに限らずVRやIoTといったテクノロジーを用いた表現やケアの可能性を探っていくことをめざしました。アートやデザインなどの専門家と連携して、事例をつくりながら社会に提案していくことと、福祉現場とさまざまなテクノロジーがつながるネットワークをつくることを目的にプロジェクトを展開しています。

事例づくり

表現に寄りそう存在としてのAI
画像生成技術を手がかりに言葉や想像を重ねて表現を生み出し、楽しみや試したいことを見出しながらよい関係を探る。(監修 徳井直生)

CAST: かげのダンスとVR
光と影、陰の中の影を感じるダンスから得た発想をもとにVRアプリを開発し、VR上でダンスパフォーマンスを体験する。(監修 緒方壽人)

実感する日常の言葉-触覚講談
福祉の現場にある日記や詩、ふと書かれる文章。神田山緑さんの講談と触覚を伝える技術とともに新たな伝わり方を探る。(監修 渡邊淳司)

学習会・体験会

障害のある人や福祉現場にとって、最新のテクノロジーやウェルビーイングについて学ぶ機会はまだ少なく、関わるには敷居が高く感じられます。そこで、まずは試しに体験してみるところからはじめて、話し合って考えるきっかけをつくっています。これまでに、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」、自身や周囲の人のウェルビーイングに意識を向けて対話をうながす「わたしたちのウェルビーイングカード」、VRゴーグル、AIによる画像生成などを体験する機会をつくりました。

調査・情報発信・ネットワーキング

「障害」「アート」「テクノロジー」「ウェルビーイング」をキーワードに、先駆的に活動している人たちに調査インタビューして、その内容をウェブサイトやメディアプラットフォームを通して発信しています。また、展覧会やシンポジウムを開催することで、障害のある人や福祉現場とさまざまな専門家の連携のネットワークが全国的にひろげることをめざしています。ぜひ情報をチェックしてみてください。

表現に寄りそう存在としてのAI

背景

障害のある人の創作の現場では、一人ひとりが表現者として活動できるように、さまざまな工夫や関わりが生まれています。軽く握ってもしっかりと持てるように加工された筆、 車椅子に座りながらでも描ける特製の車椅子テーブルなど、身体の状況にあわせて道具をつくります。また、ちょっとした会話や触れあい、表現への共感と寄りそいなど、制作中によぎる不安や理解できないことを解消できる関わりも表現を支えるために必要です。表現活動を支えて社会へ発信していくうえで、周囲のサポーターも大きな役割を果たしています。

取り組み

文章を入力すると画像を生成する人工知能技術「Text-to-Image」を使ってワークショップを実施しました。過去に描いた作品のタイトルで試したり、動物や乗り物など関心のあることや好きなものでさまざまなシチュエーションを考えたり、既存の作品にあえて似せるように文章をつくったり、自由にテキストを入力して画像を生成します。さらに、自分自身の顔写真や作品画像を準備しておくことで、本人の雰囲気や画風に近づけながら新しい画像を生成することもできます。生成された画像をモチーフとして実際に絵画を描いたりAIとのさまざまな関わり方を探っています。

可能性と課題

文章入力という性質上、言葉での表現が難しい人の参加方法はまだ探れておらず、身体の動きや音などからも関わる方法が求められます。入力操作が難しい人は誰かと一緒にやるため「もうちょっと自分で入力する言葉を考える時間が欲しい」という声も参加者から出てきました。一方で「創作に行き詰ったときにイマジネーションを得るのにいい」「自分がイメージした画像が出てきてよかった」といった声があり、普段は絵画制作をしない人が自分のイメージを表出できたり、想像以上のイメージをAIが返すことで本人のやりたいことが具体化されるなど活用方法が見えてきました。

監修 徳井直生(株式会社Qosmo代表、慶應義塾大学准教授
協力 たんぽぽの家アートセンターHANA、片山工房、Good Job!センター香芝

監修者の言葉(徳井直生)

AIと創造性

AIは人の知能や創造性を模倣し置換する存在なのか、独創的な発想やそれを実現するための新しい道具をもたらすのか。大きな話題を呼んだDALL-EやStable Diffusionなどの画像生成AIの登場によって、昨年2022年はこうした議論が一気に現実味を帯びた年となりました。

これらの技術を語る際、人が描いたと見まがうばかりの画質に目を奪われがちですが、もう一つ注目すべきなのは、「テキスト入力」という、AIをコントロールする新しい方法を得たことです。誰もが使える言葉をインタフェースにしたことによって、頭の中のイメージを画像化し、身の回りの人と共有したり、創作のインスピレーションとして活用するといったことが容易になりました。さらに、今回実施したワークショップでは、絶対的な他者としてのAIが触媒になり、障害のあるアーティストとそれをサポートするスタッフの間の対話が促進される様子も垣間見ることができました。

あらゆるバックグラウンドを持った人たちの創造的な活動、コラボレーションを支える新しいツールとして、こうしたAI技術のさらなる活用が期待されています。

技術紹介

今回の取り組みで利用したStable Diffusionは、「拡散モデル」と呼ばれるAI技術を用いて、テキスト入力から画像を生成する仕組みです。拡散モデルは、テレビの砂嵐のような画像から、少しずつノイズを取り除いていくことで高画質の画像を生成するAIです。

ある画像に微小なノイズを足すと、元画像よりも少しだけ汚れた画像ができます。この過程を繰り返すことで人工的に作った徐々に汚れていく画像データを元に、逆にある画像からノイズを取り除くAIを学習したものが拡散モデルです。

これとは別に、インターネット上で大量に集めた画像とそのキャプション(説明文)の関係を学習したAIを組み合わせることで、入力したテキストにぴったりくる画像を取り出すことが可能になります。夏目漱石の『夢十夜』の中で運慶を指して、優れた彫刻家は「木の中に埋まっている眉や鼻を掘り出しているだけ」だとしているように、砂嵐の中に埋まっている画像をテキスト入力を手がかりに掘り出していくようなイメージです。

徳井直生(株式会社Qosmo代表、慶應義塾大学准教授

(展覧会の様子)

「Text-to-image」ワークショップで入力された言葉と生成された画像

「Stable Diffusion」と「DALL・E Mini」をつかって、障害のある人が関心のあるキーワードや好きな言葉など、それぞれテキストを考え、翻訳ソフトで英訳後入力、そこから画像を生成しました。一つのテキストに対し5 つのバリエーションが示されています。

ワークショップを体験した感想や、スタッフからの問いかけ

AI が生成した画像をモチーフにしたら何が起こるのか?

たんぽぽの家アートセンターHANA のアーティスト十亀史子さんは、モチーフがもつ「そのものらしさ」を描くことにもこだわり、細かな模様や明暗なども丁寧に写し出します。普段のモチーフは、インターネット検索や、オンラインのパズルゲームが好きでそのパズルに描かれている動物の画像を参考にしていたりします。

今回Text-to-Image を使って「いろんな動物たちが集まってポーズをしているところが見たい」と、同じテキストで複数回にわたって入力。生成された画像を見て「おー!これもすごいな!ロボットってすごいな」と楽しみながら、「パーツとしてくっつけたら面白いかな、金色でやったらよさそう」と自ら考えて、気に入った6つの画像を組み合わせてモチーフにしました。6つの下絵は全て終え、1つは着彩が完成し、現在は2つ目を制作中です。

実際に制作を進めていく中で、見慣れない動物たちが混ざりあっていたり、「草かと思ったらゴリラおんねん」とモチーフをよく見ると動物たちが隠れていたり、着彩すればするほど複雑になっていく難しさもありましたが、アートサポーターに相談して、動物たちの境界線を枠で囲んでもらったり、色を選ぶのと一緒に考えてもらうことで、少しずつ不安を解消しながら制作を進めています。

(展覧会の様子)

CAST: かげのダンスとVR

背景

たんぽぽの家では活動当初より演劇やダンスなどのパフォーミングアーツに取り組んできました。2004年からジャワ舞踊家の佐久間新さんと即興的なダンスに取り組み、2011年からは定期的なプログラムとして「ひるのダンス」がはじまりました。以来、月に2回、佐久間さんと「湯気」や「ものと踊る」などさまざまなテーマで身体をとおしてコミュニケーションしたり、ものや環境との関係性をダンスをとおして探っています。2年前からは「かげ」をテーマに、懐中電灯と音が鳴る物を使って即興のパフォーマンスに取り組んでいます。

取り組み

今回、「かげ」をテーマにしたダンスを見てインスピレーションを得た監修者の緒方さんが「CAST」というVRアプリを開発しました。いつもダンスで使用しているホールで、佐久間さんと障害のあるメンバー、スタッフがVRゴーグルを身につけ、現実空間と仮想空間のなかで同時に踊りました。Castには「配役・演者」と「光や影を投げかける」などの意味があるように、参加者は「仮想世界の演者」と「空間に光と音を投じる舞台装置」として身体を動かします。1時間半のワークショップを2日間にわたり実施し、試しつつ、アプリを改良していきました。

可能性と課題

仮想空間で複数人がつながるとき、通常は遠隔地にいる人とつながることが想定されていますが、今回は参加者全員が同じ空間でダンスをしました。VRならではの位置調整やネットワークトラブルなどはありましたが、仮想空間内の映像とのインタラクションによって引き出される新しい身体の動き、ゴーグルをつけた人とつけていない人の間で成立するダンス、仮想空間だけではなく現実空間でも鑑賞を楽しめるダンスなどさまざまな可能性を見出すことができました。

監修 緒方壽人(デザインエンジニア、Takramディレクター)
協力 佐久間新、たんぽぽの家アートセンターHANA
音楽 松井敬治(ECHO AND CLOUD STUDIO)
ワークショップ映像 les contes、麥生田兵吾

監修者の言葉(緒方壽人)

コンヴィヴィアル・テクノロジーとVR

コンヴィヴィアルとは「共に生きる」という意味を持つ言葉です。AIやVRなど新しいテクノロジーに対して、人間がそれに依存するのでも、かと言って拒絶するのでもなく、人間とテクノロジーが共に活き活きと生きる世界がありえるのではないか、それが拙著『コンヴィヴィアル・テクノロジー』で考えたことでした。

たんぽぽの家で影絵のパフォーマンスを見せていただいた時、例えばヘッドライトを着けることで頭を少し動かすだけでも影が空間に大きな変化をつくれることが印象的で、これにVR技術を組み合わせることで新しい表現が生まれないかと考えました。

モノが宙に浮かんで回っていたり、現実ではありない不思議な空間。その中を頭や手を動かし動き回ることで光と影と音がダイナミックに変化していく。そんな場をつくったら今度は演者である彼らがそれにどう反応してくれるのか。ゲームであればクリエイターとプレイヤーの関係になりますが、そこにそのどちらでもあるようなパフォーマーの存在があることで、つくること、演じること、見ることの垣根がなくなり、表現技術もよりコンヴィヴィアルなものになりうると感じました。

技術紹介

光と影と音を奏でる楽器
パフォーマーは、VRゴーグルをつけることで仮想空間に入りその中を自由に動き回ることができます。仮想空間の中には、現実には存在しないオブジェが宙に浮かんでいて、オブジェに触れることで光と影と音が生まれます。仮想空間全体が光と影と音を奏でる楽器であるとも言えます。

リアルとバーチャルの重ね合わせ
パフォーマーたちは同時に同じ仮想空間に入ることができ、なおかつVRゴーグルを通して見る仮想空間の位置や向きを現実空間と位置合わせをすることで、重ね合わされた現実と仮想の両方でお互いの存在や動きを感じることができます。そうしてお互いが影響しあって生まれる振る舞いが空間全体の光と影と音をダイナミックに変化させます。

バーチャルな光と影
現実空間の光や影や音は実はとても複雑な物理現象で、仮想空間の中で完全に再現することはできません。一般的なゲームなどでは、動かない光や影をあらかじめ物の表面に焼き付けておくといったテクニックが使われますが、今回はパフォーマーの即興的な振る舞いが動く光源となって落とす影を表現するために、リアルタイムな影の描写にこだわっています。

緒方壽人(デザインエンジニア、Takramディレクター)

(展覧会の様子)

ワークショップ映像

出演:佐久間 新、たんぽぽの家 ひるのダンスメンバー、
撮影:les contes 麥生田兵吾

「CAST:かげのダンスとVR」の体験について

・VR 作品「CAST:かげのダンスとVR」の再生時間は約3分間です。
・VRゴーグルをつけると、ヘッドギア部分が光源の球となり辺りを照らします。両手に持つコントローラーも球と光で表現されます。
・仮想空間内にあるオブジェに近づくと、オブジェが光ったり、音が鳴ります。いろいろなオブジェに近づいて触れてみてください。
・エンドロールがでたら終了です。VR ゴーグルを外してください。
・作品の途中でも、VR ゴーグルを外したくなったら、いつでも外してください。特に、気分が悪くなった場合は、すぐに中断してください。
・本作品では、コントローラーのボタンは使用しませんので、押さないようにしてください。
・遠隔地にいる人が仮想空間内に入ってくることがあります。人らしき光源を見つけたら、交流してみてください。
・混雑時は体験の途中でもスタッフがお声かけさせていただくことがあります。あらかじめご了承ください。
・ご不明な点がありましたら、お近くのスタッフまでお声かけください。

「CAST:かげのダンスとVR」VR ゴーグルによる体験(約3分)

実感する日常の言葉-触覚講談

​​背景

コピー用紙やカレンダーや広告の裏、使い続けているノートやホワイトボードのすきまなど、福祉の現場には障害のある人がなにげなく書いたメッセージや日記などの文章がたくさんあります。それらは作品として発表されることを意図しているものもあれば、日々の営みの記録として息をするように書かれてはたまり、消えてはまた書かれてくものもあります。こうした日常のなかでうまれる文章の多くは、本人とその周辺にいる家族やスタッフなどのケアする人によって本人の表現として楽しまれています。

取り組み

講談とは、朗読とは違い独特の調子と張り扇と釈台(机)などの小道具を使って行われる話芸です。張り扇で釈台を叩き、音を響かせて調子良く語ります。今回は、講談師の神田山緑さんに、中村真由美さんが小学生の頃から書いている絵日記とたむちゃんが身のまわりで起きた出来事や楽しかったイベントのことを自分で質問し、自分で答えていく「タムロイド 香芝新聞」を講談として読んでいただきました。そして、張り扇で釈台をたたく音を振動に変換し、触覚としても伝わるものにしました。また、文章をつくった人や周辺の人たちとともに、講談や触覚について体験するワークショップを実施しました。

可能性と課題

ワークショップでは、ふだん接している障害のある人の文章が、講談というメディアを通して語られることで、リズミカルに心に届きました。映像と触覚伝送装置での鑑賞では、参加者が張り扇をもってたたくことで、読まれているコンテンツと一体化し、より実感をもって言葉を感じる体験となりました。触覚は視覚や聴覚とくらべて意識しにくい感覚ですが、何かを伝えるときや受け取るときには大きなはたらきがあることがわかりました。本物の追体験に止まらず、デジタルだからこそ何度も体験できたり、インタラクティブに楽しむことができるなど新しい感覚をもたらす可能性があります。

監修 渡邊淳司(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)
講談・ナレーション 神田山緑
日記 中村真由美、タムロイド香芝新聞 たむちゃん
体験構成・触覚技術協力 駒﨑掲(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)
コンテンツ撮影・編集 吉田知史(of Sheep, inc.)、星ひかり(of Sheep, inc.)
整音 垣内英実

監修者の言葉(渡邊淳司)

日常の生を物語るウェルビーイング

ウェルビーイング(Well-being)とは、それぞれの人のよく生きるあり方。その言葉にあるように、人の存在(Being)自体やあり方に価値をおく考え方です。何かができるという機能によって人の生を特徴づけるのではなく、それぞれの人が生活の中で、よくなったり、時にはわるくなったり、その動的な過程自体や物語を価値としてとらえます。

今回は、福祉の日常の中で書かれた物語が、講談師 神田山緑によって講談の形で語られ、さらにそれが触覚技術によって実感されます。福祉の現場の日常が、張り扇で釈台を叩きながら独特の調子で語られる講談となることで、たくさんの人の心にいきいきとした形で届けられます。この体験は、物語を書いた本人にとって自分自身の生を確認する過程となり、受け手にとっては他者の日常の生に寄り添うきっかけとなるでしょう。

技術紹介

コロナ禍で私たちは、他者と直接触れ合うことが憚られるようになりました。その中で、触覚を記録・再生する技術は、遠隔でも、人の動きの躍動感や場の臨場感を再現するために必須の技術として見直され、さらには、コロナ禍が緩和されたとしても適用可能な、触覚の技術を介することによる効用にも目が向けられるようになりました。例えば、映像に合わせて振動を感じることで、それに共感したり、それをより自分事として感じたりすることができます。その点で、物語をリズミカルにいきいきと語りつくす講談という話芸は、触覚技術と非常に相性がよいものであると言えるでしょう。また、中村真由美、たむちゃんが書いた日常の実録の記述の仕方も、そのリズムを引き立てるものです。

ぜひ、これまでになかった伝統芸能と先端技術の結びつき、「触覚講談」を体験いただければと思います。そして、それが、それぞれの人のよく生きるあり方を実感し、自身にとってのウェルビーイングを考えるきっかけとなれば幸いです。

渡邊淳司(NTT コミュニケーション科学基礎研究所 上席特別研究員)

(展覧会の様子)

「触覚講談」の体験について

・映像の長さは約5 分間です。ループ再生されています。
・どちらかの台に座り、ヘッドホンをつけてご鑑賞ください。
・張り扇をもって、講談師の動きに合わせてたたいてみましょう。
・座る台は高いものと低いものがあります。低いほうの台は、正座、三角座り(体育座り)など、いろいろな姿勢で試すことができます。車いすをご利用の方や、椅子を使って体験したい方は低い台に足を乗せてください。土足 のままで結構です。
・順番待ちの方がいらっしゃるときは、映像が一巡したら、交替してください。
・混雑時は映像の途中でスタッフがお声かけさせていただくことがあります。あらかじめご了承ください。
・ご不明な点がありましたら、お近くのスタッフまでお声かけください。

「実感する日常の言葉―触覚講談」ヘッドホンと振動装置による体験(約5分)

※上記動画は映像のみご覧いただけます。実際の展示では、映像を見ながら、さらに振動を触覚で感じるイスに座りながら体験します。

関連イベント

シンポジウム

実験的な取り組みに関わってきたエンジニアや研究者、福祉現場の人たちが集い、現時点での課題や期待などを共有しながら今後の可能性や方向性について探るシンポジウムを3月4日(土)に開催しました。

報告会 in 京都

3月22日(水曜)18時30分から、京都で報告会を開催します。京都では、3つの事例のうち「表現に寄り添う存在としてのAI」「CAST:かげのダンスとVR」を中心に関わった人たちから、どのように取り組み、表現者や現場は何を感じ発見したかなどを報告します。AIやVRが障害のある人の表現の現場とどうかかわってきたか、そこからみえてきた可能性や課題、そしてこれからの展望をみなさんと考えたいと思います。ぜひ、ご参加ください。

お問い合わせ
一般財団法人たんぽぽの家
Art for Well-beingプロジェクト事務局
〒630-8044 奈良県奈良市六条西3-25ー4
TEL. 0742-43-7055 FAX. 0742-49-5501
MAIL art-wellbeing@popo.or.jp

Article & Event

View all