2024年03月31日
2024年03月15日
昨年11月に開催した、ひるのダンスチーム×緒方壽人さんによるMR(複合現実)と踊るワークショップ。そのときの意見をふまえ、緒方さんが水や波を感じるようなMRアプリを開発。たんぽぽの家のひるのダンスに参加するメンバーとスタッフ、そして舞踊家の佐久間新さんがMRアプリを使い、踊りました。
◎前回のワークショップの様子はこちらから
目次
たんぽぽの家と佐久間新さんは、「ひるのダンス」というダンスプログラムに2004年から取り組んでいます。
ひるのダンスでは、すでにある音楽に合わせた振り付けを踊るダンスではなく、自分自身が周囲の環境や他者との関わりを感じることから沸き起こる即興的なダンスに取り組んでいます。
今回開発したのは、HMDをつけるだけで水の中にいるような感覚を味わえるMR(拡張現実)です。
水面に手が触れると、そこに波紋が生まれ、音がなります。
このMRには複数人が同時に入ることができ、各々のつくる波紋は、同期した水面で干渉しあい、新たな波紋を生み出します。また、波が生まれるとき、音が鳴るようになっています。この音は、何秒かおきに音色が変わるものなので、複数人で踊ると思いがけない音の組み合わせが生まれることも。
波に触れるのは、必ずしも手でなくてOK。
手が動かしにくい山口広子さんは、頭や腕全体で水を触ることが多かったです。
水田篤紀さんは、足で水を漕ぐような仕草もし、水の感触を確かめているようでした。
また、波には二人で触ることもできます。佐久間さんがメンバーさんを、あるいはメンバーさんが別のメンバーさんを支えるようにして水に触れる場面もたびたび見受けられました。
メンバーのなかには、立っている姿勢が楽な人もいれば、地面にしゃがむ方が楽な人や、車椅子を利用している人もいます。
それぞれが踊るのにちょうどいい高さが異なるため、HMDをつけた後に波面を調整する必要がありました。
波面はUnityというソフト上で調整ができますが、MR世界へ人が出入りする度に都度調整して「この高さ!」というラインを探るのが大変そうに見えました。
昨年度の取り組みに続き、今年度も音楽で、サウンドエンジニアの松井敬治さんが参加してくれています。今回、松井さんは、何種類かの音がランダムで切り替わるようにしてくれていました。
琴、尺八やフルートのような笛の音、低いハープのような音、太鼓の音などがありましたが、華やかで持続する音であるほど踊り手の動きはダイナミックでゆったりしたものになり、リズミカルで持続しない音のときは動きも小さく、細かくなっているように感じられました。
メンバーさん、佐久間さんは音に呼応するように動きを変化させていくようでした。
以下の動画の開始の部分では太鼓のパラン、パランとした音に合わせて静かに踊っていましたが、笛の音が重なり始めたタイミングから、動きが大きく広がっていきます。
MRではゴーグルの外の視界もきちんと見えているので、物を置いても大丈夫、という特徴があります。なので、午後から場所をミーティングルームへ移動し、中央にテーブルがある状態でMR空間に入りました。
テーブルの高さに波面の高さを合わせたときには、それによってテーブルを、お風呂やプールのへり のように感じる人が多くいました。
のぼせてへりに腰掛ける人、お湯をすくう人、どこに座ろうか悩んでる人……というように、テーブル一つあるだけでMRで見えている世界のイメージがふくらみやすく、MRの画面を見ていない人でも外側から「そこにあるはずの水」を感じやすくなったように思います。
山口さん
「声や音で(水とかかわって)もいいんだと分かってから、面白かった。
水をかき分ける感じで、プールを泳いでいる感じがしていた。」
松田陽子さん
「楽しかった、川の中にいるように感じた。」
水田さん
「水面との境界線にふれただけで音が鳴るからよかった。」
前回に開催したMRワークショップでは、掴む動作に反応する箱と戯れたのですが、水田さんはその時に、「ふれるだけで動いたら…」と話していました。
今回は私たちスタッフから見て、前回よりスムーズに踊れているようでした。
永富太郎さん
「魚・かえるみたいな踊り手以外の生き物が映っていたら面白いかも!」
ワークショップ終了後に、佐久間さん、緒方さん、松井さん、プロジェクト全体監修の小林茂さん、事務局スタッフで振り返りを行いました。そこで出た意見、感想の中からいくつかを紹介します。
前回より(箱のMRと比べると)波のほうが巻き込まれ感、肌に来る感じが大きかったです。
佐久間新さん
ただ、ゴーグルを着けたときの方が圧倒的に楽しく、着けていないときとの落差を感じました。
ゴーグルを付けている人だけ共有された視界、外側から見る人びとは分断されている状況のなかで、なぜか一緒にダンスができている、というものが作れたらダンスの小作品になりそうな気がします。
一般的にはVRというと、ゴーグルを着けている人と外から見ている人々は違う世界にいる、というイメージがありますが、そのイメージを払うことで成立するパフォーマンスがありそうですし、それは一種の発明になるかもしれませんね。
小林茂さん
現実では体験できないことを実現できる、というのもVRの特徴なので、今回は、現実ではできないことをやる方向にフォーカスして作りました。
緒方壽人さん
今回やってみて、人と人との相互作用で何か起きる感じがありましたよね。
なので、舞台道具、小道具の一つとして捉えて頂ければいいのかなと思って見ていました。
昨年度の「CAST: かげのダンス」と比較して、相手と呼応している感じがありますよね。前回はVRの裏に人の動きを感じることが少なかったけど、今回は人と人とのやりとりが生まれていて、水はあくまでその”媒体”としてあったと思います。
小林大祐さん
意志の力より偶然性の方が大事なので、音色がランダムに変化するように設計しました。
松井敬治さん
踊っている中で凪が訪れる瞬間があって、その時が気持ちよかったですよね。集中力がそこで上がる感じがありました。
以前小林茂さんが、松井さんがその場でPA(音響係)をやると面白そう、と言っていたことが頭に残っているので、ぜひやってみたいです。
今回のワークショップの振り返りを元に、さらなるMR×ダンスの可能性を探っていきたいと思います。ぜひご期待ください!【終わり】
写真・文:廣内菜帆
2024年03月31日