Art for Well-Being

Report

2024年02月07日

「できないことには価値がある」からはじまる、ものづくり |オリィ研究所所長 吉藤オリィさんインタビュー | 2022年9月27日

 アートとケアの観点からテクノロジーをとらえなおし、アートとケアとテクノロジーの可能性をひろげるプロジェクト「Art for Well-being」。
 このプロジェクトでは、病気や事故、加齢、障害の重度化など、心身がどのような状態に変化しても、さまざまな道具や技法などのテクノロジーとともに、自由に創作をはじめることや、表現することを継続できる方法を考えます。
 <たんぽぽの家>が2020年から試行的に始めてきたこのプロジェクトは、2022年から文化庁の一事業としても取り組み、先進的な実践や考え方を調査して発信しています。
文化庁「令和4年度 障害者等による文化芸術活動推進事業」

今回インタビューしたのは、分身コミュニケーションロボット「OriHime」で知られる、オリィ研究所所長の吉藤オリィさん。 
オリィさんは、自身の経験から、移動困難者の社会参加をテーマにものづくりなどを行ってきました。「できないことには価値がある」という考えと、テクノロジーが出会ったとき、そこにはどんな未来が見えてくるのか。
オリィさんに伺いました。

移動困難者の社会移動性をつくることから

いろいろやっていますが、取り組みの核になっているのは移動困難な人たちです。分身ロボットカフェはその代表的なものです。
私、奈良の工業高校の時、車椅子をつくっていました。それから、移動困難者の社会移動性とでも言えばよいでしょうか、身体は移動できないんだけれども心を移動させる、社会的立場の移動をどう可能にするか。例えば、自分の居場所とか、コミュニティがいくつかあって「ここやめたとしても、こっちがあるからいいや」と思える安全性をどうつくるかに重点を置いて、ものづくりをしています。
オリィ研究所というチームも、いろんなメンバーがいます。武藤将胤も、当事者顧問になっています。

できないことには価値がある

20年以上、ものづくり続けてますが、重要なのは「何がつくれるか」ということより、「何をつくるか」なんです。

私は、できないことには価値があると言い続けています。私は学校に行くことができなかった、できないんだけれど、「じゃあ、それをどうやってできるか」を考えることができるのは、できないからである。つまり、できないからこそ、それを本気で考えられるっていうことなんです。例えば、お父さんがALSになってしまったという学生は、お父さんはもう車椅子も自分で運転できないと。だけど、「じゃあ、視線入力だったらもう一回運転できるんじゃないか」って、視線入力の車椅子をつくったりしています。

重要なのは、エンジニア、当事者、それを応援するコミュニティづくりの3つ

サポートを必要とする当事者と組んで、そこに対してテクノロジーと、応援するコミュニティをつくることによって加速していく仕組みづくりをしています。この3つ(エンジニア、当事者、コミュニティ)が、とても重要なのです。

これは、車椅子ごと乗れる車椅子をつくっているところです。

立てる車椅子―オリィさんX(旧Twitter)より

こういうものをつくることによって、若い子たちが自分の可能性に気付くことができるのです。お母さんも、この子が言うことを、どう出していけばいいか、わからなかったのですが、こんなふうに視線入力で、お母さんの後を追いかけて走ったりできるというので、もう本人とお母さんが目覚めてしまいました(笑)。まだまだできることがあるじゃないかと。この時、この子は5歳で、それから4年間くらい様々なテクノロジーを提供した結果、今9歳なのですが、しゃべることはできない、呼吸器つけているし動けないのですが、指先でパワーポイントつくって、合成音声も埋めこんで、私に対してオリヒメ越しにプレゼンをしてくるのです(笑)。

この先天性ミオパチーの子がつくったイベントが、カフェを使ったプラネタリウムイベントでした。この子は、宇宙が大好きです。それで、全部自分でプロデュースして、回を重ねるごとにレベルアップもして、この前、第3回には50人以上の人が集まりました。彼女も分身ロボOriHimeで来ていました。
技術を取り入れるスタートを切ることができて、それを応援できるコミュニティがあって、みんなからすごいねって言われることによって、さらに技術を高めていくことができるのです。

寝たきりの先に、憧れをつくっておくことが超重要

この視線入力で、車椅子を動かせるようになると、走れるだけではなくて、自分で自分の介護ができるようになるのです。視線入力で車椅子を傾けて、体を動かすことができる。床ずれってしんどいけど、そのしんどさって当事者でないと分からないですよね。その床ずれを防ぐために、家族が30分に一回くらい呼ばれる。家族も毎日、30分に1回行かなくてはいけないのは大変。本人も30分に一回しか介護されないからしんどい。例えば、ALSの方が自分で視線入力で姿勢をひねったりすることによって、介護される回数が1日2,3回に減る。これは、車椅子メーカーさんと組んで、今年、販売を開始しているプロジェクトです。

それをさらに進化させたものも、現在、開発中です。ベッド自体も視線入力で起こして、そのまま動き回ることができます。これは、将来我々は寝たきりになったとしてもベッドのまま徘徊できるよね、というような話で。これってちょっと羨ましいじゃないですか。福祉のイメージって、今までは、優しいとかだったかもしれないけど、そこから、いかに「かっこいい」とか、「私も寝たきりになったら将来これに乗りたい」「あ、いいな」って思えるものにしていくか。だって、みんな、将来、身体動かなくなったり、寝たきりになるわけです。そのような時に、どうやって寝たきりの先に憧れをつくっておくかということが大変重要です。そういうことができる人って今寝たきりのメンバーだよねと。だから我々は寝たきりの患者、じゃなくて、寝たきりの先輩と呼んでるのです。

あと、当事者もやっぱり誰かの役に立ちたいということで、2017年に車椅子用バリアフリーマップアプリ「WheeLog」を当事者の方とかと一緒に作りました。もう10万ダウンロードくらいされています。
みんな誰かの役に立ちたいのです。誰かの役に立ちたいからこそ、その人が街を走行することが誰かの役に立つ、という仕組みで。走行ログと言って、ユーザーが車椅子で通った道をマップ上で共有できるのです。
それと、その人をリーダーとした車椅子のイベントをずっとやってきています。

コロナになったから集まれないのでコロナでどうやったらできるか考えたことで、バーチャルスタジオを作って。これもコーチングして、今は頚椎損傷で寝たきりの人が遠隔でこのスタジオを作れるようにしています。

こういうモビリティをつくったりしていると、レディガガの服を作っているような人たちからコラボを持ち掛けられて、最強にかっこいい白衣をつくってみたりとかもしています。

本当に重要なのっていうのは、究極は自分がほしいものをテック的につくっていくことなんです。自分は車椅子を20年作り続けているのですが、車椅子があっても外出できない人がいる、では何が必要か。心の車椅子だよね、という発想でOriHimeというロボットも生まれています。

番田雄太さん―オリィさんX(旧Twitter)より

身体が動かなくなっても、「心が自由なら、どこへでも行き、なんでもできる」。私の亡くなった親友の言葉です。

“いる”って価値なんだ

例えば、ALSの方は日本に毎年1000人発症して、そのうちの300人以下しか呼吸器をつけていません。
この教頭先生も、病気が進行して学校にも通えなくなってしまって、休職されていたのです。その時に、生徒会の2人が「こんなのあるよ」とOriHimeを使って卒業式に出席した。生徒さんからしても、先生がOriHimeでスピーチもされてらっしゃるので、このロボットではなく、教頭先生が出席しているという認識になったのです。生徒たちもOriHimeに自発的にお辞儀をして去っていく。つまりリアクションがおこる。それによって教頭先生はすごく嬉しくて、自分も卒業式に参加したという実感が得られたそうです。
今までは、社会への参加は、身体を運ぶことがスタートだったのですが、これも教頭先生がいた卒業式といってもいいのではないか。つまり、いるという状態はつくれるし、現実化できるし、いるということは、価値なのです。その人がそこにいたことで、私たちの人生はきっと変わっていったはずなのです。
このできごとがきっかけで、教頭先生は、まだ僕にできることがあるかもしれないと、広島県のALS協会の副会長になられて、今、OriHimeのパイロットとして分身ロボットカフェで働いてらっしゃいます。もう喋ることはできなくなってしまったんですが、視線入力でOriHimeを操作して人工音声で喋ることはできる。視線の動きをコンピュータに乗せてお客さんにも見せるようにしたことで、間があっても、お客様が待てる。ということが分かって。こういうことを研究しているのは、実は先ほどの卒業式の時に、生徒会の生徒です。いま彼女は、徳島大学の福祉学部に通っていて、そこから遠隔でインターンしています。彼女がインターンの学生で、教頭先生がうちのカフェで働いているメンバーで、ここがタッグ組んだことによって研究が進んでいます。

いずれみんな寝たきりになる。だから、その先を作る。

いずれみんな寝たきりになる。でもみんな、「寝たきりになったらこれやろう」とは思っていません。
みんな、「高校生なったらこれやろう」「大学生なったらこれやろう」「社会人なったらこれやろう」ってことは思っても、寝たきりになったらこれやろうとか、きっとない。でも、それってあるべきだよなと思って。寝たきりの先輩たちと共に、いろいろとノウハウためながら、いろんなものをつくってきました。

将来は寝たきりの人が自分で自分の介護できる未来をつくろうと、その一環としてみんなで働きに行こうと、分身ロボットカフェ実験をして。そのうちに、このカフェでトレーニングしたことによって、パイロットたちがどんどん他の企業に就職していくようになりました。
この動きを加速させていこうと、いろんなコミュニティの方々からもクラウドファンディングで4500万くらい集めることができて、2021年に常設実験店『分身ロボットカフェ DAWN ver.β』を東京・日本橋オープンしました。 
うちのインターンの学生達は、寝たきりのパイロットたちと組んで、料理も提供したいと言って、ロボットアームを遠隔で操作して、寝たきりの人が全部料理をつくる取り組みもしています。

スピード感を生むしかけ

―スピード感をすごく感じました。それ欲しいってなった時から実現までにかかる時間の短さ。

オリィ:つくりたい人って、いっぱいいるのです。つくりたいけどつくりかたが分からないという人もたくさんいます。私もプログラミング教室をやっていますが、単純に自分でお金出してでも、ものづくり勉強したいという社会人たちに来てもらって、当事者たちとタッグ組んでものをつくる経験をしてもらっています。そこから、できないけどできるっていうふうなことを思った当事者のグループとくっつけて、盛り上げていく。そうすることで、こういうものが生まれていくところがあります。

いろいろなかたちでの、企業とのコラボレーション

―いろいろな企業とのコラボレーションのお話も出てきました。

オリィ:車椅子メーカーさんと一緒に新規事業をやらせていただいたりとか、コンサルに入ったりすることもあります。オリィ研究所とタッグ組んで、分身ロボットカフェやそうしたイベントをすることもありますし。
オンラインボッチャの全国大会のスポンサーになってくれたバイオジェンという製薬会社さんは、SMA(脊髄性筋萎縮症)という難病の子たちの薬をつくっていることから、僕らを支援したいって言ってくださいました。
最近は、我々の理念に共感して、寝たきりの人が働くことを、自分の会社でも将来やっていきたい。では、どうやって働けるだろうと考えた企業様が、OriHimeを採用、導入してくれたこともありました。うちのカフェで、OriHimeの接客を受けてもらって、この人(OriHimeのパイロット)いいと思ったら、その人を採用していいという仕組みです。人材マッチングみたいな形態になっています。そうすると、実際、そこから就職されるような方も出てきました。
働き口をどうつくっていけるか、企業様に「うちの会社だったらどういう活用ができるか」を一緒に考えていただくようなこともコラボレーションだと思っています。

友人になる、仕組みをつくる

―実は、エンジニアの方などから、いろいろなニーズを持った人たちに出会えないという課題を聞くことがあります。

オリィ:街を歩いてても、寝たきりの人たちとは出会えません。だから、そういう仕組みについては考えています。例えば分身ロボットカフェに来てもらう。実は、うちのカフェは3回来てもらうと、ランクアップするのです。お客様扱いされているのは3回までで(笑)、4回目以降は研究員証というのを渡します。それで、研究員証を持っている人のみが参加できるイベントなどもやっています。ハロウィンパーティとか、みんなでボードゲームなどで遊んでいます。これ普通に楽しそうじゃないですか。
いろんなメンバーたちがこうやって一緒に遊ぶことによって、「なんか、一緒にできないだろうか」みたいなことを考え始めるのです。で、そうやって遊ぶ中で、こうしたらもっと遊びやすいんじゃないかとかも考えることになる。仲良くなった友人が困ってたら、なんかしてあげたいと思うじゃないですか。まず、そういう仕組みをつくってます。

―遊びの場は、おそらくみんなフラットな関係にあるように思います。だから、技術を持っている自分が何かをしてあげたいというよりは、その人と一緒に何かをする場面でこの技術使えそう、となる。そういう機会をつくることがすごく大事なのです。

オリィ:オリィの自由研究部 も、その考えの延長線上にあります。コロナ禍で集まることができなくなったんで、どうしよう。月額1000円で、当事者も、エンジニアも、それを応援したい人たちもみんな入れるサークル活動にしよう!と。「できないことには価値がある」というスローガンのもとに、何ができないのかってことを、ALSの人とか、心臓病の人とかが、それぞれの病気のことを紹介して、お互いそういう知識を身に付けていくっていう会もあるし、みんなでスケートに行こうよって感じで遊んだりすることもある。これ自体に企業からスポンサーもらったり、今600人くらいなので、単純計算で60万円くらい使えるから、その予算を学生とか、ものづくりするメンバーたちに振り分けて、開発費に充てたり。これはオリィ研究所という会社とは別ですが、ここで生み出されたものを製品化していくようなことになったら、オリィ研究所がアフターフォローしていく、そういう組み合わせでやっています。
本当に重要なことは、「何をつくるか」に高速に気づけて、高速に使えて、かつそれに高速にフィードバックがもらえる環境をつくることかなと思っているんです。

<終わり>

編集:井尻貴子

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