Art for Well-Being

Report

2024年04月10日

【レポート】Art for Well-being 表現とケアとテクノロジーと、東北のこれから

2023年10月1日(日)に宮城県・塩竈市杉村惇美術館の大講堂にて、「Art for Well-being 表現とケアとテクノロジーと、東北のこれから」と題した体験会・トークセッションを行いました(ご案内はこちら)。

本イベントは、東北地方で文化振興に寄与されている方々に実行委員として協力いただき、こうなったらいいなという東北の未来について議論を重ねながら実現にたどり着きました。イベントタイトルに「東北のこれから」とつけたのは、その私たちの願いが込められています。

以下にイベント準備、当日、その後の振り返りまでにいたる過程を順を追ってレポートします。

きっかけと準備

東北地方でぜひやりたい!

Art for Well-beingの前身のプロジェクトに位置付けられるものに、2017年から始めた、テクノロジーと福祉の関係を探る「IoTとFabと福祉」があります。長崎、福岡、山口、島根、香川、奈良、大阪、京都、岐阜、東京と、全国各地にネットワークをもち活動を続けてきました。

そして昨年、2022年度から本格的にはじまった Art for Well-being プロジェクトも、これまでに福岡、兵庫、大阪、奈良、京都、東京で活動を展開してきました。

東北地方でぜひ展開したい!という思いを胸に、相談したのが、NPO法人エイブル・アート・ジャパン代表の柴崎由美子さんでした。

柴崎さんからのアドバイスは、単にイベント的に報告会を1回やって終わり、というような関係ではなく、やるからには、東北地方の関係者とちゃんと意見交換をし、東北ならではのニーズを一緒に探り出し、東北地方での実践研究につながるようにしてほしい、そうでないと意味がない、というもの。

そしてご紹介いただいたのが、アーツ・プランナー/リサーチャーの菅野幸子さんと、菅野さんが東北のクリエイターやアーティストなど一緒に立ち上げている「Tohoku Creative Meeting(東北クリエイティブミーティング)」という集まりでした。

Tohoku Creative Meetingでの発表機会 

Tohoku Creative Meetingは、東北を拠点に文化芸術分野で活動している実践者(文化施設・NPO・企業・フリーランスで活動している個人)やアーティストたちが有志で集まっている、2021年から始まった緩やかなネットワークです。現在は非公開のグループですが、(2023年10月1日時点で)90名近い人たちがお互いに情報共有などをおこなっています。

菅野さんは国際交流基金のプログラムコーディネーターの経歴を持ち、アーティスト・イン・レジデンス(AIR)の研究者でもあり、最近は東北に活動拠点を移され、東北をアートを通じて元気にしていきたいという思いのもと活動されています。

2023年7月19日の20時~21時半、菅野さんの配慮でTohoku Creative Meetingの定例会においてArt for Well-beingプロジェクトについて発表する機会をいただきました。さらに発表するだけでなく、普及のための報告会や実践例を一緒につくっていくために関心を持ってくださる方に呼びかけをするという目的もありました。

とてもありがたいことに、この日に参加してくださった人のなかから、「Art for Well-being 表現とケアとテクノロジーと、東北のこれから」を一緒に考えてもいいよ、という人たちが手を挙げてくださいました!

実行委員のみなさんと塩竈市杉村惇美術館 

このように緩やかに実行委員が組まれ、実行委員のみなさんは以下のとおりです。

・菅野幸子さん(アーツ・プランナー/リサーチャー)
・高田彩さん(塩竈市杉村惇美術館統括/Birdo Flugas主宰)
・小野寺志乃さん(FabLab SENDAI – FLAT/合同会社FLAT代表社員)
・千葉里佳さん(ダンサー/からだとメディア研究室 代表)
・柴崎由美子さん(エイブル・アート・ジャパン 代表)
・伊藤光栄さん(エイブル・アート・ジャパン 東北事務局)

イベントを成功させるには、いつ行うかというタイミングと、どこで行うかという会場選びが重要になりますが、この面においては、実行委員の高田さんが、自身が統括されている「塩竈市杉村惇美術館」の大講堂でやるのはどうかと提案してくれました。

塩竈市杉村惇美術館は築70年以上の美しい木造建築。元公民館の建物を改装して生まれた美術館で、大講堂ではかつてダンスパーティが開かれるなど、市民の大切な記憶が蓄積されてきた情緒あるクラシックな空間です。そこで、現代的なテクノロジーを扱う展示ができたことは、私たちにとっても喜びでした。

塩竈市杉村惇美術館(2023年10月1日 トークイベントの様子)

東北で活動している団体・大学・企業の展示

今回のイベントは、一方的な普及ではなく、対話できる環境を整えることに注力しました。参加者同士のなかから自発的にこれから東北でやってみたいことや「こんなことをしたらいいのでは」というアイデアなど、情報共有や意見交換できる場をつくりたいと考えました。

そのために、Art for Well-beingプロジェクトが2022年度に実施した取り組み(AI、VR、触覚講談)について紹介するだけでなく、東北にゆかりにある団体・大学・企業のみなさんにも声かけをして展示や体験会の協力を募りました。

エントリーいただいた方々は以下のとおりです。
・東北大学 電気通信研究所 Chia-hueiさん
・東北工業大学 長崎智宏研究室 高瀬祈さん
・東北福祉大学 教育学部 杉浦徹さん
・一般社団法人ファブリハ・ネットワーク 伊藤彰さん
・芝浦工業大学 工学部 機械機能工学科 マイクロロボティクス研究室 長澤純人さん

イベント当日

来場者の参加動機 

知り合いがそのまた知り合いを連れてきてくれて、気づけば50名以上の多くの方にご来場いただきました。寄せられたアンケートの参加動機を見ても、立場や関心の幅の広さがうかがわれます。

・重度障害のある児童に興味を持ってもらえる、何かを探しに来ました。自分で動く→他の物が動く、話す、震えるなど、そういうのがほしいな…と思いまして。

・体は動かなくても表現ができる手段を手に入れてWell-beingな日常が送れるようになる事を期待して。

・福祉事業所の経営に携わっており、テクノロジーによる利用者様の支援の可能性を拡げたいと考え参加しました。志を同じくし取り組みできる仲間と出会えることを期待しております。

・福祉や医療などに対して、アートが何ができるか、とっかかりを得たいと思ったため

体験会は11時から14時までと3時間もあるので、出展者同士もお互いに見て回ることができると思っていたのですが、その予想はいい意味で大外れして、来場者のみなさんがそれぞれの展示にじっくり滞留しつつひっきりになしに往来があり、来場者との意見交換で大忙しの体験会となりました。

各ブースの展示内容

人の感情を理解し、人に寄り添うAI:5

東北大学 電気通信研究所 Chia-hueiさん

対人コミュニケーションで重要な役割を果たしている非言語情報。その中でも身体の姿勢や動作は、重要な情報を含んでいます。感情を表す多数の身体動作を詳細に分析し、抽出した感情表出の単位「動作ユニット」をAI化して利用する研究を進めています。展示では、研究の意義や研究の現状、AI化がもたらす未来の展開について紹介されました。

自発的なコミュニケーションの練習のためのインタラクティブな道具

東北工業大学 長崎智宏研究室 高瀬祈さん

自分で意思表示したり、感情表現するのが難しい重度の障害のあるお子さんが、遊びながら意思表示の練習ができる道具の研究・制作をしている高瀬祈さん。コミュニケーション支援の道具や機器はすでにありますが、お子さんの特性によっては取り扱いが難しいこともよくあるなかで、誰が遊んでも「自分でアクションを起こすことで変化を起こすことができる」ことが学べる、研究開発中のインタラクティブな道具を展示してくれました。

今ある力で参加を促す支援機器

東北福祉大学 教育学部 杉浦徹

東北福祉大学教育学部杉浦ゼミでは、話し言葉や動きに困難のある人の学習活動やコミュニケーションへの参加を促す機器を試作しています。先端技術を駆使して問題解決に挑むというスタンスではなく、多数の人が扱える簡単な電子工作の技術を活用しているのがポイント。予め録音しておいたメッセージを再生できる機器(ツボにはまって何度も押す方も!)や、わずかな動きでもピックアップできる操作スイッチを実際に触ることができました。

Co-Create Lab 〜欲しいモノづくりから やりたいコトづくりへ〜

一般社団法人ファブリハ・ネットワーク 伊藤彰さん

宮城県名取市から出展くださった、一般社団法人ファブリハ・ネットワークさん。デジタルファブリケーションを利活用して、対象となる方の自立支援や就労支援と言ったQOL(生活の質)の向上を目指して活動されておられます。セラピストがクライアントに一方的に支援の道具を提供するというよりも、ともに学ぶ・つくる・ひろめるができる環境を整えることに注力されています。当日はたくさんのカラフルな自助具を手にとって見ることができました。

身体性を持ったスマホロボットによるコミュニケーション

芝浦工業大学工学部機械機能工学科 マイクロロボティクス研究室 長澤純人さん

長澤澄人さんは、東北大学未来科学技術共同研究センターで客員教授もされている、東北に縁のある方。とても小さなロボットをつくる専門家です。身近にあるスマホにアームと車輪をつけて動き回れるようにしたら、スマホ自身が人格をもつかのように感じられ、スマホの中のアプリがしゃべるより、もっと親密にわたしたちと関わることができるのではないかというユニークなスマホロボットのほかに、開発された小さなロボットを紹介いただきました。

Art for Well-being プロジェクト 2022年度の取り組み

一般財団法人たんぽぽの家

2022年度に実施した取り組み(AI、VR、触覚講談)について展示しました。取り組みの詳細については以下をご参照ください。

報告書:
https://art-well-being.site/news/599/

2022年度成果報告展覧会アーカイブ:
https://art-well-being.site/archive/48/

表現に寄り添う存在としてのAI Text to Image
CAST: かげのダンス VR体験
実感する日常の言葉—触覚講談

トークセッション

トーク① 東北福祉大学教育学部 杉浦徹さん

(杉浦)
今日は「今ある力で参加を促す支援機器」というテーマでお話させていただきます。

私の作ったものはアートとは全く縁遠い、夏休みの工作に近いところもありまして、少し申し訳なさもありますが、ただ、そういうものを含めて「テクノロジー=表現」と捉えたり、あるいは表現を支えるテクノロジーとしての捉え方もできるのではないかと思います。

私は長野県の支援学校で先生をしておりまして、ご縁があり長野大学や、国立特別支援教育総合研究所という所で働いて、3年前にそのあとに東北福祉大学へ来ました。なので、出どころは学校の先生というところで、福祉とも少し毛色が違う、学校の中で障がいのある方達の学びや表現を指導する、ということに取り組んでまいりました。

まず、障害のある子どもたちの教育の歴史についてざっと説明します。

障害のある人への教育指導が義務化されたのは昭和54年(1979年)になります。この年から、現在の特別支援学校にあたる特殊学校の整備が始まります。ただ、それでめでたしめでたしとはいきませんでした。障害のある人の社会自立の困難さがクローズアップされたり、通常学級内で困難を抱える発達障がいのある生徒の存在も明らかになったりしたことから、そのような全ての人々をちゃんとケアしていこうという流れになりました。では、そもそも障がいとは何でしょうか。

捉え方は様々あると思いますが、一般的には聴こえない聴覚障害、見えない視覚障害、うまく話せない言語障害、自分の力で自由に動けない肢体不自由、目や耳からの情報をうまく処理できない知的障害、発達障害などを総称して障害として認識している方が多いと思います。少し嫌な言い方になってしまいますが、かつては、出来ないことがたくさんある人を障害者と呼んで、そのための訓練や治療を専門的な所でやったほうが良いのでは、という捉え方をしていました。

このようなイメージはどこからやってきたのかというと、WHOが出している障害分類というもので、障害は個人の問題にあたるので個人が解決すべきであり、解決しないと社会的不利や就労困難に繋がる、という考え方です。ここから、障害に対して「〜できない」というイメージが広がっていきました。そうすると、障害のある人の発達をどのように支援するか、という問いが生まれます。

こちらの図は定型発達の様子をイメージにしたものです。ちょっとずつできることが増えていく。

ところが、障害のある人の発達については、実際は違うんですが、イメージとして「できないこと」「難しいこと」が穴ぼこのようにあると捉えられてきたのではないかと思います。

私は大学の特殊教育学科で勉強をしていましたが、10年より上の先輩方は「異常児教育学」という名称で学んでいたそうで、障害に対して「欠陥」や「アブノーマル」という捉え方をする歴史が存在していたようです。それで、従来の特殊教育の考え方では、穴ぼこの部分をちょっとずつ塞いでいく、右肩上がりのようなイメージを持って進めていたんですね。この考え方は間違いではないのですが、「時間」という点を考慮できていないんです。私は15年間教師として勤めましたが、担当した生徒の障害が改善することはあっても完治することはありませんでした。穴ぼこを埋めようとしてみると、なかなか時間がかかるんです。

ただ、これまで穴ぼこという表現をしてきた障害ですが、実際には、環境から求められることとの隙間を指すんですね。

例えば今だと、スマホやPCがないと生活に支障が出ますよね。それは、環境からそれを持っていることを求められているからなんです。もう一つ、私自身の経験を例に挙げましょう。アメリカのスターバックスでコーヒーを注文しようと頑張って「Coffee」を発音したのですが、「Pardon?」と返されたんですね。全く通じないんです。まずい、と思ってなんども「Coffee」の発音を繰り返したんですが、ついには次のお客さんを待たせ過ぎているからと怒られて先送りにされてしまったんです。このように、置かれた環境で求められていることができないと、それが障害になります。最終的に、コーヒーの写真をスマホで店員に見せて伝えたら、先ほどまで鬼のように怒っていた店員が、やっと理解して優しく対応してくれたんです。置かれた状況をスマホというツールが解決してくれました。

このほかにも、たとえば牛丼の松屋に行って、タッチパネル式の注文にてんやわんやしたお客さんたちがお互いに注文を譲り合う、というような状況もあるわけでして、このような「障害状況」というのはある意味誰もが味わう状況なんです。それらの多くは、人からの助けや、ツールの力を借りることで解決することができます。

このような事を踏まえて、障害の捉え方は変化しました。それが、国際生活機能分類と言われるもので、「どれくらい今ある力で社会に参加できているか」という見方をしています。なので、何ができて何が得意なのかに着目して、今までの教育では「努力して早くこっちにおいで」という姿勢だったものを、障害のある人と理解していき社会としても成熟していこうという姿勢に変えていっています。「方法」ではなくて「結果」を重視しようとする姿勢です。このアプローチの例として挙げられるのが、補助代替コミュニケーションや、支援技術といったものになります。

障害のある人にとって難しいところを、人、あるいはテクノロジーで支えることです。

例えばこちらは、ボタンを押すと「教頭先生、ちゃんと仕事をしていますか?」という音声が流れます。声を出せない生徒が、毎朝10時半ごろに教頭先生の所へ行って、仕事をちゃんとしているかこれを使って確認しに行くんです。教頭先生も「これを聞くとちゃんとしないとという気持ちになる」という風に話していて、この偵察係が生徒の役割になっている。

ここで大事なのは、「できた」という経験を作るだけではなく「できてうれしい」という気持ちを育てていくことなんです。ツール自体はささやかなものなんですが、その子たちの「できる」を保障していく作業こそが大事だと思っています。

トーク② 一般社団法人ファブリハ・ネットワーク 伊藤彰さん

(伊藤)
簡単に私たちの法人の説明からさせていただきます。2018年に一般社団法人として活動を始めました。主な法人メンバーはリハビリ関係の職員、作業療法士です。誰もが暮らしの創業者になり、暮らしやすさを作れる社会をビジョンとして掲げ、「ものづくりからコトづくりへ」をテーマに運営しています。

具体的には、障害のある人と自助具を共創したり、セラピストや福祉担当者を対象にしたものづくりのためのセミナーやワークショップを開催したりしています。作業場は訪問看護ステーションの半分を間借りしていて、現場の人達のニーズを聞きながらものづくりをしています。

私たちは営利目的というより地域の社会的処方箋として自分たちが機能できればいいな、という思いで取り組んでいます。「これがあればいいのに」「こういうことがやりたい」という思いは誰でも持ちますが、なかなか情報源まで行きつくのが難しいと思うんですね。なので、そういった場面で僕たちがものづくりを支援し、最終的には地域の人々とのつながりを築けたらと思っています。

機材としては、FDA方式と光造形式の3Dプリンタ、レーザーカッター、CNC切削機、デジタル刺繍ミシン、カッティングマシーンを揃えています。まだ全部使いこなせているわけではないのですが、いざという時に対応できるように基本のデジタルファブリケーション(※)機材は一式揃えています。

※デジタルファブリケーションとは?
造形ソフトや3Dスキャンで得たデジタルデータと専用の工作機を用いて、「もの」を印刷ないし造形加工することを指す言葉

どうして作業療法、リハビリの中でデジタルファブリケーションを使おうと思ったのか?ということをよく訊ねられるのですが、もともと自助具って手作りなんですよね。ホームセンターなどで買ってきた素材を接着剤などで繋ぎ合わせてパーソナライズして作っていることがほとんどで、全て一点ものなんです。

失敗したり壊れたりすると、再現できない。ある方にぴったりと合う補助具を作ることが出来たとしても、障害の状況が変わったり、担当していた方が変わったりすることで簡単に作れなくなってしまいます。このような現状を踏まえて、継承性、量産性、デザイン性を高めることができるデジタルファブリケーションは親和性が高いのではないかと考えました。

自助具に対しての「作ってもらったもの」という思いから、利用者さんは多少合わないところがあっても最初は無理して使ってくれます。ただ、日常使いはされないんです。そういったことにもったいなさも感じていて、せっかく作るのであれば使う人にきちんと合わせて作れるようにサポートしたいです。

で、実際ものをつくると、自分でもやりたくなるんですよね。そこで、音楽祭や、ものづくりの部活のようなものや、eスポーツの活動など、ものづくりを起点に様々なコトづくりにも取り組んでいます。

実際に制作したものの一部をご紹介します(下記の画像)。このように、どんどんやりたいことが増えるというところは、デジタルファブリケーションの可能性だと感じています。

トーク③ 芝浦工業大学工学部機械機能工学科 長澤純人さん

私は微細加工(1000分の1ミリの細かさ)を専門としていて、手のひらサイズでロボットを作ることができます。私はこの技術を使って、スマートフォンにアームと車輪を付けてロボットにする「身体性をもったスマホロボットによるコミュニケーション」という試みをしました。

なぜスマホかというと、スマートフォンは高い情報処理能力を持ち、常にインターネットに接続されていて、我々のパーソナルなデータも入っています。なので、スマホに腕を付けることによって、ユーザーの頼もしい相棒になるのではという仮説を立てました。

スマホは情報処理能力の高さに加え、多くの人がインターフェースに慣れていることから心理的な使いにくさを軽減してくれます。

このとき形状記憶合金ワイヤーを曲げ伸ばしして動くアームを学生さんが設計しました。通常は関節ごとにモーターが入るので重たいんですが、これは、電気を通して形状記憶合金が縮んだり伸びたりする性質を活かして作られています。4つの関節を持ちながらも、重さはたったの12グラムです。

作りたいもののイメージがあっても、それの再現度がどうなるかは学生の技術力によるんですよね。機械系の学生達は、直線的な、いわゆる一般的な工業製品的な形状を作ることはできますが、曲線的、有機的な形状をモデリングすることについては得意じゃない人が多いです。本当はもっと可愛いデザインのロボットにしたいので、そこが悩みです。

ディスカッション

後安(たんぽぽの家):ファブラボにおける自助具づくりと、コミュニケーションを円滑にする方法の接点はどこにあると思われますか?

伊藤:障害を治そうという考えではなくて、環境自体がその人と合っていないことが問題と捉えて、環境を変えようという考えの方が馴染みやすいのかなと思います。

杉浦:そうですね。伊藤さんの言うとおり、障害のある人が今ある姿のままで社会参加し、多くの人に存在を認知してもらう方が早いと思います。

後安:我々たんぽぽの家の理事長の播磨も、自分で食べれない利用者さんが犬食いになってまで「自分で食べること」の方が大事だろうか?という話をしていますので、共鳴する部分がありましたね。お二人のプレゼンを聞いて質問のある方はいらっしゃいますか?

参加者:とても参考になりました、ありがとうございました。伊藤さんに質問です。自分でものを作ろうとすると作業が膨大になってくると思いますが、伊藤さんがどのようにものづくりをされているのかが気になります。

伊藤:実際に協働する際にはアイデア出しが一番重要なのですが、アイデアは実際に現場にいる方や当事者の方が中心なので、私は彼らの意見を受けてCADでそれに合った形をモデリングして出力するところまでをやっています。ゆくゆくは、デジタルファブリケーションの使い方を広めて、それぞれが自分で作りたいものを作れるようにするのが理想的です。

小野寺(FabLab SENDAI – FLAT):私が所属しているファブラボ仙台では、どちらかというと趣味で使った商品開発のプロトタイピングをする人達をお手伝いすることが多かったのですが、その時に、もしうまく出力ができなかったらどうしよう、とか壊れてしまったらどうしよう、といったようなネガティブなことをよく考えていました。今日のお話を聞いて、できることを探しながらサポートするのが何か探っていくのが大切なのだなと思いました。当事者と話してものだけで解決しようとするのではなく、もう少し広げて方法や仕組みから考えるやり方もあるのではと思いました。

柴崎(エイブルアートジャパン):杉浦さん、伊藤さんに質問です。お二人の取り組みは宮城県の障害のある人たちやその家族にどれくらい広まっているのか、それを必要としている当事者たちにどんな形で情報が結びついているのか気になります。現状がどうなのかを教えて頂きたいです。

伊藤:自分たちは手さぐりで工房を運営している感じですね。初めは通所・訪問で働いているスタッフに声をかけたり、自分の手の届くところから声をかけたりしていました。あとは、ワークショップを県北で開催するなど、出向いていって何か活動をする、というのはやりたいのですがなかなか動けていません。デジタルファブリケーションでどういうことができるのか、かみ砕いて説明する場がほしいなと思います。お金と時間をどう捻出するのかも考えないといけませんね。助成金などもうまく活用していけたらと思っています。

杉浦:私はまだ仙台に来て3年で、こちらでの認知度は少ないと思います。ですが、仙台市内の中学校のパソコン倶楽部に指導に行き、VOCAの作り方を教えた時に、その子たちが作ったVOCAを支援学校の生徒にプレゼントしてくれたことがあったり、あとは学生たちが作った支援品をフォームで募集したりすることは始めています。

千葉(ダンサー/からだとメディア研究室):私の親も80才になり、できないことが増えてきて、介護をする機会が増えてきました。その時に、自分でできる喜びは奪いたくないけど、でも心配でついつい手を出してしまうんですよ。研究者の方々は、そのあたりについてどのようにお考えかをお聞きしたいです。

長澤:そこは、私も難しいなと思いますね。例えば、アシストスーツという歩行を助けるツールがあるんですが、補助し過ぎると筋力が落ちてしまって、まったく歩けなくなってしまうんです。どれだけ補助してあげたらいいんだろう、というところが難しいので、どの程度補助してあげるのかという指針とかがあればなと思います。

杉浦:難しいトピックですよね。…少し話題がずれるかもしれませんが、あきらめるということを私は割と肯定的に捉えているんですよね。なんでもかんでも挑戦しにいく事が良いという訳ではなく、「ここまでは自分でできるけど、ここからはできない」といった自分の状態をきちんと把握しておくことが重要だと思います。

伊藤:私は字をきれいに書くのが下手なんですけど、それって、周りがどう頑張っても書けないんですよね。それと一緒で、自分がどこで満足して、どれでよしとするかって大事なんですよね。

長澤:義手は上手に作り過ぎると、健常者の能力を超えてしまう可能性があります。このまま技術が発達すれば、義手を付けた人がスーパーマンになってしまうかもしれない。ここまでくると倫理の問題になってくるので、非常に難しいんですよね。

後安:ありがとうございます。他に質問のある方いらっしゃいますか?

松木:仙台市で社会福祉法人仙萩の杜を経営している松木と申します。杉浦さんのお話でもありましたが、「できることが増える」っていうことが非常に我々にとっても非常に励みになるんです。どうしても出来ないことに目が行きがちなのですが、何か一つの兆しが見つけられる、ということが利用者さんにとっても職員にとっても励みになるんですよね。なので、それを可能にするテクノロジーの存在というのは非常に大きいなと思います。「やらなくてもいいかもしれないけどできる」くらいでも、選択肢が増えるということ自体が良い影響力を持つと思います。質問なのですが、開発者側の方から見て、現場にいる私たちに対して期待する事とか、我々ができることがあれば教えて頂きたいです。

伊藤:そうですね…私自身の希望としては、(松木さんの現場に)呼んでいただきたいです(笑)。実際に行ってみないと分からないことが多いので、そこでお話しできたらなと思います。

長澤:私が大学で博士研究員をやっていた時に、医学部と工学が連携して新しい研究領域を作ろうという風になったことがありました。でも、医学の方は基本的に「命を預かる」という感じなので、少しの失敗も許されないんですね。こちらが試作品を作ってみても、試用する際のリスクの高さから「ノー」でかえされるという経験をしました。ロボットで、うまくいったものの最たる例はアイボですが、なぜうまくいったかというと、あれがエンターテイメントだからです。転んでも失敗しても愛嬌として受け止められるんです。なので、失敗をある程度許容してくれるテーマから始めてみると、うまくいくのではないかなと思います。

感想・振り返り・今後の展望

▼とても参考になりました。振動するユニットは、自分があったらいいのにと思っていたものだったので感動しました。ボールゲームも雨の日の活動には最適ですね。チームラボみたいなのがもっと身近にあったらいいのにと思います。思いハンデがある子供達にも、親の負担なく、いろいろな体験ができる場がほしいです。海に入る、ジェットコースターに乗るなど疑似体験でいいので(本当にするのは危ないので)できるような、なにかが、できたらいいのになと思います。

▼アート×Technology×福祉は本来相性が良いと考えていますが、お互いのことを良く知らないことが垣根を高くしています。その意味で、今回のようにまず集まり対話する機会が得られたことは第一歩となります。

▼当日わたしたちがみたのは一例で、これを継続させていかないと次の話につながらない。これからも情報共有と意見交換をしながら経験値を高めていく機会を継続的につくる必要があると思います。そのために集まる機会をつくる。展示をしなくてもいいので、話し合うだけでもいいから、分野を超えたつながりが大切で、福祉施設にとっても、大学の研究室との関わりは重要です。課題を見つけるのではなく目標を見つけて、言葉や身体で翻訳する人も必要だろうし、地ならしをしていく人も必要でしょう。

▼仙台で実施するのとは違い、目的意識をもっていないと塩竈まで来てもらない。温かみのある木造でできたのはよかった。これからは、当事者のニーズをとらえる小さな体験会を日常的につくっていきたい。大きくイベント化する以前に、施設に伺って、小さなおもちゃを試すなど。個々それぞれのニーズ、小さな機会を大切に、いったりきたりすることが大事だと思う。例えば、小さな体験の機会に、大学の学生も同行し、調査・研究対象として組み込んでいくなどし、横のつながりをつくる。やれないことをできるようにする、のではなく、やれることを見つけるというのが大事。

▼作った人と直接やりとりできるというのが重要だと感じました。大学の先生や研究者が集まると、どうしても研究者どうしの会話になりがちなので、それを当事者や全然知識のない方にどう伝えるかも考えながら、アイデアを外にわかりやすく伝える機会をつくりたい。ガイドブック的なものにわかりやすくまとめるのも重要だが、チラシでさえも、やはりどこか難しそうに思える。参加者のかたは、その日思い切って、ここへ来て見て、体験してみて初めてわかった、という人が多かったのではないか。

▼こういうのは初めての場所だったので、当日は探りさぐり参加した。参加者のみなさん、各ブースに滞在している時間が長かったのが印象的だった。小野寺さんが出展者の情報をメモして、来場者に伝えるようにしていたのをみていた。わたしは、単純に友達を増やしたいと思った。研究者かどうか、当事者かどうかの前に、友達になってそれぞれのやっている研究の発表会やイベントに顔を出すようになるのが理想。途中経過を見てもらって、次どうするか。形ができてきたらまた集まるというようなワークインプログレスができたらいいな思いました。


本レポートを最後まで読んでくださり、ありがとうございました!今後の東北での展開もどうぞご期待ください。

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